自白……供述調書
 壁際でそいつはじっとこっちを見ていた。

 黒光りする身体を誇示するかのように、長い触角をゆらゆらとさせている。

 便器の脇に立て掛けてあった箒にそっと手を伸ばす。

 箒の柄を握り、私はそいつとの距離を狭めた。

「こ、この野郎!」

 無意識のうちに怒声を張り上げていた。

 箒を振り上げ、叩きつける。

「死ねっ!死ねっ!」

 壁や畳、布団の上、所構わず叩きつけた箒の音が、狭い舎房の中で鈍く響いた。

 狂ったように張り上げる私の声は、寝静まったばかりの静寂をあっさりと打ち破り、他の舎房からの怒声を誘引した。

「きちがい野郎!静かにしねえか!」

「眠れねえぞ、このぼけが!」

「てめえが死ね!チンカスっ!」

 騒ぎを聞きつけた当直の刑務官達が、どかどかと安全靴の靴底を踏み鳴らして集まって来た。

「何を騒いでるんだっ!」

 箒で叩きつけられたそいつは、身体の右側にダメージを受けたのか、本来の機敏さを失って、枕元でクルクルと回っている。

「まあだくたばんねえのか!くらえ!くらえ!」

 再び狂ったように箒を叩きつける。

 柄が壊れ、ぐにゃりとなった箒を投げつけた。

「木山っ!どうしたんだ、静かにしないか!」

 箒を投げつけた私は、枕を両手に持ち、今度はそれで止めを刺そうとした。

 枕で打ちつける音に混じって、両隣の部屋からは壁を蹴りつける音がし始めた。




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