自白……供述調書
 枕を投げつけたと同時に扉の鍵が開けられた。

 銀縁の眼鏡を掛けた刑務官が、

「木山!何してる!」

 と言って舎房に入って来ようとした。

「うるさい!こいつを始末しないと俺は眠れないんだ!」

 投げつけた枕の横に、身体を半分潰されたそいつがもがいている。

「ゴキブリ位で騒ぐんじゃない。隣の者が煩くて眠れないだろう」

「ゴキブリ位だと?ふ、ふざけるな!
 何もしてない俺をこんな所に押し込めやがって……」

 普段なら絶対に刑務官には反抗的な態度など取らない私であったが、この時はどういう訳か食って掛かっていた。

 たかがゴキブリ……

 確かにそうだ。

 刑務所の舎房にゴキブリなんて当たり前に付いて回ってくるもの。

 今の今迄こんな事で騒いだ事など無かった私だった。

 後々思い返してみても、どうしてそうなったかが判らない。

 私の反抗的態度が、精神的な変調から来たものと判断されたのか、私は舎房から引きずり出される羽目になった。

「此処で喚いても周りに迷惑を掛けるばかりだ。ゆっくり話しを聞いてやるから出ろ」

 出ろと言われるより先に腕を掴まれ、私は舎房から引っ張り出された。

「い、痛いなあ!何すんだ。俺は何もしてないぞ!」

 再び周りの舎房から怒声が響く。

 そいつらに向かって刑務官が怒鳴る。

 引きずられるようにして連行された私は、別区画に建てられた特別な舎房に連れ込まれた。

 保護房。

 別名、鎮静房。

 部屋の壁は四方をラバーで覆われ、隅に排便用の穴がある。窓は無い。

「もう遅いから、とにかく一晩ここに居ろ」

「な、なんだよ、話しを聞くとか言ってたじゃないか!なんでこんな部屋に入れるんだ!出せ!出してくれ!出すんだ!」

 喚く私を無視して扉は閉められた。

 暫く扉を叩いたりしていたが、私の気力は長く持たなかった。

 その夜、殆ど一睡も出来ずに過ごした。




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