自白……供述調書
 緑色というのは、一般的に精神の安定感が得られる色とされているが、保護房の畳の緑色は決して私に安心感をくれはしなかった。

 寧ろ私の気持ちはひどく落ち込んだ。

 幾つもの染み。黒く変色したそれが所々にあり、畳全体をくすんだ色にしている。

 音らしい音は、巡回に来る刑務官が、この保護棟を出入りする時に開ける鍵の音位。

 ガチャリと鍵を開ける音。

 足音は殆どしない。

 巡回したという証拠を残す為に、廊下の端にあるグレーのボタンを押して行く。そのボタンを押すと、警備隊の待機室にあるコンピューターに記録される。

 昔はハンコを押していたが、それだと一度に全部押して後はサボる事が出来るからと、今のシステムになった。

 刑務官も人間だ。深夜、眠い目を擦りながら舎房の巡回をするのは苦痛に違いない。時にはサボりたくもなる。が、そういう時に限って事故が起こる。

 事故。

 雑居ならば喧嘩による傷害沙汰であるし、独居ならば自殺等の自傷行為だ。

 時間外の交談や読書、その他の他愛も無い不正行為についてはそれ程心配していない。

 彼らが一番目を光らすのは同囚による暴行事件と自殺だ。

 管理責任の問題になるからだ。

 東京拘置所でも、過去何人もの収容者が自殺した。過去の自殺者の中で、一番語り草になっているのが、千葉の女医殺し。

 被告自身も医者で、事件当時はまだ三十前半ではなかっただろうか。一審で死刑判決を受け、控訴していたように記憶する。

 彼は畳の糸で自分の命を絶った。

 やり方が凄まじい。

 畳の糸を解し、それを首に巻く。鉛筆を差し込み、それを時計回りに回して行く。通常の首吊り以上に苦しかった筈である。死への余程の執着がなければ、到底行えるものではない。

 彼の死体は、首に畳の糸が食い込み、頸動脈が完全に切れていたという。

 膝を抱えながら、私はそんな事を考えていた。

 俺にはそのやり方は無理だ……

 楽な方法は無いのか……

 一日中、そんな事を考えていた。



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