自白……供述調書
 こういう所で死ぬなら、首を吊る方法が一番オーソドックスで簡単だ。

 紐がわりになる物は幾らでもある。シーツを裂いて繋げ長くすれば大丈夫だ。自分の衣類でもやりようによっては代用出来る。

 ただ、この保護房では無理だ。

 天井に監視カメラがあるし、寝具自体が自殺防止用にいろいろ工夫されていて、自殺に用いられないようになっている。

 私の思考は、死を自らの手で迎える事のみに働いていた。

 不思議な心情である。

 暫くすれば裁判官が、死か或はそれに値する判決を言い渡してくれるのに、自ら手を下そうとしている。

 この時は、何故?とかどうして?という思考は全く沸かなかった。

 自分の舎房に戻ったら……

 やりようは幾らでもある。

 前回迄の保護房では、四六時中喚いたり、泣き叫んだりしたものだったが、今回はひたすらじっとしていた。

 翌々日、私は元の舎房に戻された。

 直ぐに入浴があり、四日振りの湯舟に、私は一時心の中を無にしていた。

 十五分。

 着替えや身体を拭く時間も含めてだから、実質は十分少々しか時間は無い。

「三分前!」

 という入浴担当の声で風呂から上がる。下着だけの姿で風呂場から舎房へ。

 廊下をこっちに向かって歩いて来る顔に見覚えがあった。頭は丸刈りになっていたが、彼に間違いない。あの隣人だ。

 私に気付いた彼はニコッとし、片目をつぶった。

 私も真似してそうしようとしたら、入浴担当の若い職員に、軽く小突かれた。

「木山、妙な事するな」

 小声でそう言うと、

「先生、駄目ですよ、順番を考えて連行して下さい」

 隣人を連行していた職員はまだ拝命したてで不慣れなのだろう。しきりに頭を下げていた。

 部屋に戻され、拭き足りない汗を拭っていると、初めて見る顔の職員がやって来た。

「木山、今度此処の担当になった栗田だ」

 物静かな声音で自分の名前を名乗った担当に、私は少しばかり驚いた。





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