自白……供述調書
 何時もより15分ばかり早く事務所に来たが、既に全員顔を揃えていた。

 入った瞬間、張り詰めた空気を感じた。

 任された俺が一番遅くて怒ってんのかな?

 この分じゃ明日からは30分早く来なきゃ……

「おはようござ……」

「森山君!」

 挨拶をする間もなく、野間口妙子が呼んだ。

「何だか、皆さん慌ただしい感じ、が……」

「木山悟が、自殺を図ったの。」

「えっ!?」

「幸い一命は取り留めたみたい」

「今朝、ですか?」

「いいえ、昨日の午前中よ。今日になって各マスコミに情報が入ったの。そろそろニュース番組でも流されるかも」

「自殺未遂って事ですが、次回の判決に影響は?」

「まだ決定はされていないが、多分延期されるだろう。判決の内容には変わりないと思うがね」

 話しに加わった高橋が、パソコンのワンセグをニュース番組に合わせた。

 浅野は自分のデスクで電話の応対をしている。

 森山の姿を見ると、電話をしながら手招きした。

 慌ててコートを脱ぎ、浅野の前に行く。そのまま電話が終わるのを待った。

「……ええ、そういう事です……それでは、早急に担当者と会って頂いて、細かい打ち合わせの方を……はい、判りました……お手数掛けます。では宜しく……」

「おはようございます」

「木山の件、聞いたか?」

「はい、たった今」

「死ななくて幸いだった。ただ、その後の経緯がまだ発表されてないから、今後どうなるか予断を許さない状況だ」

「はい。と、なると昨日のお話しは……」

「今でもゴーサインは出てる。状況は、寧ろいろんな面で戦い易くなったよ」

「どういう事です?」

「昨日、あれから第一弁護士会に顔を出した時に、ボソッと漏らしたんだ。うちは、木山悟の弁護をやるよってね。そうしたら、タイミング良くと言ったら本人に悪いが、この自殺騒ぎ。
 早速支援団体から幾つか申し出があった。今の電話もそうだ」

 その時に見た浅野の得意顔は、まるで子供のようだった。




< 82 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop