自白……供述調書
 何ヶ月振りかの娑婆の景色。

 私を乗せた押送車は、銀座から晴海通りを抜け、霞ヶ関へと向かった。

 色鮮やかな街並の色。

 着ている物も春めいて明るい色だ。

 有楽町の交差点を抜けると、街中の色合いがはっきりと変わる。

 外堀通りを境にして、まるで違う色になるのだ。

 色の違いは、建物や歩行者の服装だった。

 やはり銀座を歩く人達と、官公庁が建ち並ぶ霞ヶ関の歩行者とではこうも違うものかと感じた。

 そんな事を考えている自分が何だか可笑しかった。

 過去幾度となくこのルートで拘置所から裁判所、警察署から地検へと通っているのに、どうして今になってそんな感傷的になったのだろう。

「着いたぞ。降りる時は足元に気を付けてくれ」

 年配の刑務官が私の腰縄を手にし、声を掛けて来た。

 この人は、後何年で定年なんだろう……

 俺が娑婆に出れる頃にはとっくに退職してるんだろうなぁ……

 俺が生きて出れれば…だが……

 私の脳は停止する事なく、様々な思いを呼び起こしていた。

 だが、不思議な事にこれから数時間後に起こる出来事には、何の感情の変化も表われなかった。

「担当さん、今、何時かな?」

「丁度9時だ。……二時間後だな」

「長いなぁ……」

「官本、何がいい?漫画にするか?」

「そうだね……」

「判った。五、六冊入れとくぞ」

 温厚そうな老刑務官。階級を示す襟章は銀の三ツ星。下から三番目。

 部長職だが、あの年齢でその階級という事は、余り出世に縁が無かったのだろう。

 待機する独居に入れられると、直ぐに老刑務官が漫画の単行本を持って来た。

「こんなもんしか無かった」

 心から済まなさそうに言い、私に手渡してくれた。

 その時に触れた老刑務官の手に、温もりを感じた。





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