自白……供述調書
「森山君、木山悟からは連絡が来たかね?」

「いえ、それがまだなんです」

「そうか……」

「こちらで控訴手続きしちゃいましょうか?」

「うぅむ、控訴期限は確か……」

「判決から十四日後ですから、今月の二十六日です」

 森山は、既に控訴趣意書の下書き迄作ってある。

 何時でも本人の署名と押印があれば東京高裁に提出出来る手筈だ。だが、肝心の木山本人から、控訴の意志表示がまだ無い。

「昨日迄、現場確認と面通しで警察に呼ばれた方の聞き込みに追われてたんで、木山に面会してなかったのですが、今日の午後にでも会ってみます」

「そうだな。何だったら、支援団体代表の長瀬さんと一緒に行ってみると良い」

「判りました」

 正直、この時点ではまだ森山も控訴の件は心配していなかった。

 一審であれだけ冤罪を叫んでいた被告である。誰が考えても控訴はするだろうと思っている。

 浅野の危惧は別な所にあった。

 森山である。

 やはりもう少しベテランの者が面会に行ってれば良かったかなと思った。

 森山の若さが、木山には弁護士として今一つ全幅の信頼を寄せずらいと思われているのではないだろうか。

 そういった事もあり、支援団体の長瀬も交えて面会した方が安心するのではないかとの配慮をしたのである。

 控訴審になれば、自分も含め、高橋と野間口も一緒になって弁護団を作るつもりだ。

 単なるバックアップだけではなく、裁判自体にも出た方が良いだろう。

 森山自身は、恐らく自分一人で法廷闘争をするつもりだろうが、やはり経験の少ない森山一人では、駆け引きで負ける恐れがある。

 今は、浅野自身も含め、抱えてる裁判があって手を貸せないが、最終的には自分が出るといった方向で捉えていた。

 森山は、浅野の思惑など、当然知る由も無かった。



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