自白……供述調書
 木山が面会から戻って来るなり、直ぐさま上訴権放棄を申し出た時、栗田は自分の耳を疑った。

 あれだけ無罪を主張していたのが、どうして?

 刑務官という立場を忘れ、栗田は木山に、

「木山、上訴権放棄は別に焦ってする必要は無いんだぞ。まだ期限迄時間がある。控訴する意志が無いにしても、期限が来れば刑は自動的に確定するんだ。最後の最後迄じっくり考えたらどうだ。支援団体や弁護士さんがお前の為に動こうとしてるんだ。弁護士さんと、よく話し合ったらどうだ」

「担当さん、一審で実刑喰らった人間が、控訴して勝てると思う?
 勝てる見込みなんてゼロに近いんだ。それを争ったら、一体何年此処に居なきゃいけない?
 東拘に何人も冤罪を争ってる奴が居るけど、一番長い奴は四十年近く争ってるじゃないか。死刑にならなかったんだ。懲役行って、真面目に務めて仮釈でも貰えれば、二十年位で出れる。俺はそっちを選ぶ」

「木山、お前がそういう考えならば、俺達はとやかく言わない。だが、聞かせてくれないか?
 今でも無実だと胸を張って言えるか?」

「俺は、今迄何度か懲役に行ったけど、一度も自分が犯した罪を隠したり、嘘を言った憶えは無い。だから、今回のコロシだってそうさ。
 俺はやってない。それでも罪に服すんだ。こんな所で朽ち果てる前にね」

 木山の物言いは決して激しいものでは無い。

 まるで他人事のように語っている。

 それが卻て栗田には、木山の内に秘めた怒りのようにも感じた。

「木山、刑に服すって、どういう意味だか判るか?」

「……?」

 木山は、栗田が何故こんな質問をして来るんだろうと訝しんだ。

 それでもその事を考えてみた。

 刑に服する事の意味……

 幾つもの答えが出て来たが、今一つしっくりとしなかった……





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