自白……供述調書
 夕食前に、支援団体が差し入れしてくれた本が入った。

 結構分厚い本が多かったが、ページをめくってみても全然興味が沸かなかった。どの本も宗教的な匂いがして、何処か鼻につく。

 やっぱり宗教絡みか……

 人道主義だか何だか知らないが、こんなんじゃなく、もっと気の利いた物を差し入れしてくれよ……

 そんなふうにその時は思った。

 仮就寝の時間になり、布団を敷いた。

 ラジオからはクラシック音楽が流れている。

 読みたくもない本を差し入れされ、聴きたくもない音楽を流される。

 眠たくもないのに、無理矢理寝かされる。

 布団に包まり、自由な世界に居た時の思い出に浸ろうとした。

 自分が経験して来た人生の中で、一番楽しかった事を思い浮かべようとしてみる。

 物思いに更けようとするのだが、時折、あの若い弁護士の顔がちらついてしまい、集中出来ないでいた。

 名前、何て言ってたっけ……

 若い弁護士から来ていた手紙を思い出し、私物棚から取り出した。

 封筒に書かれた名前を見、元のところへ戻そうとしたが、私は中身を抜いた。

 通常の便箋では無く、罫線用紙で書かれたそれを私はまだ一度も読んでいなかった。

 正確に言うと、最初の部分だけは一度読んでいる。

 時候の挨拶も無く、いきなり控訴云々という文字が書かれてあった。

 控訴という文字を目にし、何と無く面倒だなと感じ、それで読むのを止めていたのだ。

 布団の上に胡座をかき、読んでいなかった残りを読み始めた。

『この事件を調べれば調べて行く程、警察の調書は矛盾だらけで……』

 その後に、それらの矛盾点を事細かに書き連ねてあった。





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