自白……供述調書
『……先ず一番目に、被害者に致命傷を与えたと言われる凶器の包丁は、被害者宅の台所にあったものだと判っているが、被害者が住んでいたマンションの間取りからすると、ベランダから侵入した場合、それは不自然である。
 何故ならば、台所は玄関の方にあり、被害者が殺害された部屋を通り越さなければそこには行けない。
 確かに室内は、被害者と加害者が揉み合った様子が窺えるが、台所は整然としている。
 台所にあった包丁を見つけてとなっているが、室内の揉み合った乱雑さから推測して、凶器となるべき物を探しに台所へ犯人が足を向けようとすれば、当然、被害者はそれを察し、止めようとより激しい抵抗をする筈である。
 ならば、台所でも揉み合う筈だ。その形跡が全く無い。
 次に、木山さんが供述されたとする、侵入方法だが……』

 罫線用紙にびっしりと書かれてあった文字を追って行くうちに、私は、自分でも知らなかった事実や矛盾点を初めて知った。

 矛盾……

 そりゃそうだ。

 俺は犯人じゃないから……

 ならば、何故一審の弁護士はそれに気付かなかったんだ?

 裁判官もだ。

 そして、最後の一枚にはこう書いてあった。

『……全ては警察のご都合主義から生じた捏造です。
 警察だけではなく、公平な裁判を行うべきである裁判官や、警察からの調書に何の疑問も持たず鵜呑みにした検察、そして、貴方の最大の理解者にならなくてはいけない筈の弁護人までもが、ことなかれ主義的で、裁判をオートメーションで流れる作業程度のものと認識してしまったのです。
 木山さんが声を大にして無実を訴えながらも、何故その声に誰も耳を貸さなかったのか。
 推測するに、過去に犯罪歴があったからという、ある種の偏見から来ていた事に違いありません。
 裁判官、検事、弁護士。立場は違えど同じ司法の世界に居る者として、このような裁判が行われてしまった事に、深い悲しみと憤りを感じています。新たな冤罪を生まない為にも、一緒に戦わせて下さい。』

 そう結ばれた長い手紙は、パソコンなどで打ち込まれたものではなく、右肩下がりの癖字で書かれていた。

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