優しい殺人鬼×○○
「·····死ぬことが怖い、か。」
殺人鬼は溜息をついた。
「大丈夫ですよ。綺麗に殺します。
だから包丁なんですよ····。」
ゴム手袋を着けた手で包丁を持ち、縛られたままの男に近づいた。
そして
紐を解いた。
「え······?」
男は不思議そうな目をしている。
とても驚いているようだ。
「最後にもう一度·········、やりたいこと、ないんですか?」
殺人鬼は、何処か憂いを帯びた目をし、男を見つめている。
殺人鬼なのに、
穏やかな、優しい顔をしている。
何かを懐かしむ様な、愉しむ様な、そんな顔だ。
「······じゃあ、最後に、絵を描きたい。」
殺人鬼に包丁で迫られているのに、こちらも穏やかな表情だった。
この殺人鬼は、人の心を動かせる何かを持っているのだろうか。
「絵!いいですね。 では、紙とペンです。」
殺人鬼はそう言って、自分の胸ポケットから取り出した万年筆、スケッチブックを手渡した。