喫茶人形 〜メイドの恋〜
空は曇ったり晴れたりの
まだら模様
動物園の屋根が見える森の遥か上に
白いもくもくとした、入道雲
日差しが強くなった頃には
立ち並ぶ、ビルと木々のすき間から
金色のタマネギみたいなものが
光っているのが見えた
途中、休みながら
電車はとっくに走り始めていたけど
歩いて… 歩いて…
たどり着いたのは
どこか避暑地でも、海でも山でもなく
高い高いビル
巨大電光モニター
ドラッグストア
ゲームセンター
ファーストフード
私たちと、あまり変わらない
同じ年頃の買い物客で溢れかえった
ザワザワとした駅前交差点
そこからまた、少し歩いて
雑居ビルやマンションが続く
裏通りを抜けると
リョウスケの手の力が
少し緩んだように思えた
「…しばらくはここに住もう ユキナ」
「…ここ?」
リョウスケが立ち止まったのは
とても古い、二階建て
なにかお店をやっていたのか ―――
いたずら書きで埋め尽くされ
閉じたシャッターの上には
なにか看板があったような感じで
その上には、部屋があるのか
やはり閉じたままのガラス窓
横から延びる、鉄の階段を
リョウスケが先に昇って行くと
手すりのとこから パラパラとサビが落ちた