喫茶人形 〜メイドの恋〜
…涙のあと、残ってないよね?
白い息を吐きながら
玄関前に到着
そして小さな鏡を出して
一度、笑顔チェック
寒さのせいで
表面があっという間に
白く曇ってしまう
「…よし!
―――― ただいまぁ!」
…あれ?
暖かい部屋
急いで閉めたドア
足元には、おじさんの物じゃない
黒く、ピカピカに磨かれた靴…
…もしかして
「…… アサノさまッ?!」
プルルル…
プルルル…
…慌ててローファーを脱いでいると
玄関先の家電が、突然鳴って
腕をのばして出ようとしたら
微かな音を立て、すぐに切れてしまった
…奥で、誰か取ったのかな?
「おかえりなさい!ユキナちゃん!
旦那さまが、久しぶりにお帰りですよ」
「…はいッ!」
廊下をしばらく進んで
少し緊張しながらリビングに入ると
暖かく燃える 暖炉の前
ソファに座って新聞を読んでる
ガウン姿のアサノさまが、顔をあげた…
「――― お帰り ユキナ」
「…アサノさまこそ
おかえりなさいませ!」