喫茶人形 〜メイドの恋〜



向かい側のガラスに、私がうつってる


…どこにでもいそうな
とても平凡な 私の顔…


その私の手をにぎって
たくさんなにか話してる 先輩の顔


先輩の顔は、全然似ていないのに
なぜか今
ヨルのことを、思い出していた




…私は全然
清純とかじゃないよ…

いい子でも、誠実でもない…




――… さみしかったんだ

多分、誰でもよかった…
ヨルは…強く私を求めてくれたから
それで一緒にいたんだ…


好きな人に あいたくて
一番優しい人を裏切った

盗むとか、サイテーのこともした…


「そうだ!ユキナちゃん!
もうすぐクリスマスだし
…嫌な思いさせたしさ
指輪くらい買ってやるって
な?!どんなのがいい?」


「ごめんなさい
好きな人…います」


「ユキナちゃ…」




―… なぁんにもないんだ

おそろいのストラップや

映画みたいな、約束の指輪…

学校帰りに繋ぐ手も…

手に触れられて、あるってわかる

そういうもの はなにも…




――― だけど、リョウスケは

"私の名前"を呼んでくれた…




たとえそれが…
嘘だったとしても
あの場限りだったとしても
バカかもしれないけど…


それでも…あの一瞬だけは
私を想っていてくれたんだって…
あの温もりは本物だって
そう思って…いたいんだ…




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