ハッピーアワーは恋する時間
「あらそう。ではあなたを採用します」
「はい?」と私が言ったのと、半ば絶望的な口調で佐久間さんが「お嬢様・・・」と呟いたのは、ほぼ同時だった。

「あなた、お仕事を探しているんでしょう?」
「え、ええ。でも、どうして・・・」
「私にもお花が大嫌いだった時期がありました。でも“ライラック”を始めて、お花に接するうちに、私はまたお花が大好きになりました。お花が好きだという気持ちを、取り戻すことができました。いえ、それ以上に、お花とともに生きる喜びを、お花は与えてくれました。今、お花は、私のお仕事の一部として関わっているけれど、仮にお仕事の一部ではなくても、私にとって、お花は欠かせないものになりました」

女の人は穏やかな笑みを浮かべてそう言いながら、泣いている私に、さりげなくティッシュを渡した。

「お花に罪はありません。これからお花に接して、癒されて、またライラックのことを好きになってください」
「うぅぅっ。で、でもっ、わたし、ブーケとか作ったことない・・・」
「それは私が教えます。実際にしながらコツを覚えて、後はご自身の感性を磨いて、お花との“対話”ができるようになれば、アレンジできるようになりますよ」
「は、あ・・・」

・・・確かに、口で教えてもらうより、実際手を動かして、数をこなせば、ブーケだって作れるようになるだろう。
花屋さんに勤めた経験はゼロ、接客業は、短大生のとき、ドーナツ屋でアルバイトした以来だから・・・ホント、久しぶり。

でも、今は職業を選り好みしている時じゃない。

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