ハッピーアワーは恋する時間
湯浅亜幸さんは、刑事だった亡き私の父の最後の部下だった人で、亜幸さんにとっては、父が最初の上司だった。
父は、父親がいない亜幸さんのことを、息子のように可愛がっていた。
それでうちにも何度かごはんを食べに来てたけど、私は短大生になってから、ひとり暮らしをしていたから、亜幸さんと実際会ったのは、私が高校3年生だったときが一番多かった。
日にちまでは覚えてないけど、確か亜幸さんは、私と同じ7月生まれで、私より5つ年上の・・・34になったばかりだと思う。

『亜幸さーん。これ分かる?』
『どれ・・・あーこれな。これにはな、ちょっとしたコツがあるんだ。覚えてたらラクだぞ』
『ホントに?』
『ホント』
『じゃあ教えて!くださーい!』
『よーし。未散ちゃんには特別簡単に教えてやる』

数学の分からない問題を、亜幸さんは、とても分かりやすく教えてくれた。
亜幸さんみたいな人がお兄ちゃんだったら、すごく自慢できるのになぁ、なんて、一人っ子の私はよく思ってたっけ。

あの頃の思い出に、つい懐かしさが込み上げていたけど、「これ、パイナップルジュースです」と言うウェイターの声にハッと我に返った私は、亜幸さんからウェイターへと視線を移した。

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