【短編】愛トキドキ憎しみ
「……プッ。何で肩なの? 普通は胸じゃない?」


「んー、他の男の胸にってのはどうかと思ったから、肩」


「そんなこと言ったって、さっきお姫さま抱っ……」



自分の言いかけた言葉にハッとして、火が出るかのように顔が熱くなっていく。


私……。


智輝にお姫さま抱っこされたんだった。


あの腕が、私を……。


不覚にも胸がドキドキしてくる。



「ハハッ、あれは不可抗力。それより俺の家連れてきてごめんな。あそこから近かったからさ」



そう言って智輝は立ち上がると、少しずつベッドへと歩み寄ってきた。



「で、どうする?」



ベッドに腰をかけ、自分の肩をポンポンッと叩き私を見つめる。



「……智輝知ってるの?」



多分、知っているよね?


それまでの穏やかな表情が一変して、複雑な表情を見せる智輝に確信する。



「悪いな。慎司から聞いたよ」



そうだよね……。


だから私を心配して来てくれたんだ。


優しいね、智輝は。



「ありがと……」



私は智輝の隣に座り、そっと肩にもたれかかった。



「ねぇ、どうやって家まで来たの?」


「んー、タクシーで」


「よかった。あのまま抱かれてきたのかと思った。あ、そう言えば学校は?」


「学校? 早退したよ、心配だったからさ」


「ご迷惑おかけしました……」


「気にするなって、俺が勝手にしてることなんだから」



私は……喋りながらたくさん涙を流していた。


とても静かに、だけどとても激しく流れ落ちてくる。


智輝の肩から伝わる温もりと優しさ。


今、思っていたよりもつらくないのは、隣に智輝がいてくれるから。


泣かせてくれたから……。


泣けてよかった……。


智輝が隣にいてくれてよかった。



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