この恋心に嘘をつく
手帳にスケジュールを書き込むため、凛子は一旦、専務室を出ることにした。
「安生さん」
専務室を出ると、ちょうど満理がファイルを持って駆け寄ってきた。
「これを渡すよう、室長に頼まれたの」
「何のファイルですか?」
中を見てみると、マニュアル本のようだ。
それも、手作りの。
「とても参考になるの。室長がこれを貸すなんて、珍しいわ」
「梅原さんも?」
「えぇ」
「……」
観月の言葉を思い出す。
観月は、満理を信頼しているのだろう。
表には出さないが。
「専属は大変だと思うけど、頑張って」
「ありがとう」
満理は一礼すると、踵を返し、エレベーターへと向かった。