この恋心に嘘をつく

「余りでもらったの」


羊羹の違いなんて分からないが、確かに美味しかった。
3000円と聞いていたからかもしれないが。


「仕事はどう? 慣れた?」

「忙しいです。でも、専務が気遣ってくれるので」

「専務が?」


意外そうな顔をされた。
環は誰にでも、優しいと思う。

本心がどうであれ。


「専務は優しい人よ。好きなる女子社員は多い」


マグカップに紅茶のティーバッグを浸し、暇潰しとばかりに話してくれた?


「でも、専務は誰も寄せ付けない。いつも笑顔だし、物腰は柔らかだけど」

「それは、分かります」


環には、壁がある。
固い壁じゃない。
柔らかな壁だ。

相手を弾き返す壁より、相手を受け入れるように見せかけて押し返す柔らかな壁の方が、たちが悪い。


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