この恋心に嘘をつく

凛子は慌てて、立ち上がる。


「何かあったのか?」

「いえ、特には…」


朝田の事を報告しようと思ったが、やめた。
告げ口するみたいで嫌だし、何よりもこのぐらいの事でいちいち騒いではいられない。


「なら、いい」

「はい…」


本当に、環は追及をしてこない。

それを楽だと思いもするが、同時に踏み込む気がないとも思う。

こちらが話せば耳を傾けるだろうが、自分からは決して歩み寄らない。


「……」


独りとは、こういう事を言うのかもしれない。

入社する前より、入社した後の方が、環をより遠くに感じる。

心を開くべき相手に、自分は向き合っていないから。


「はぁ…」


ネガティブな思考に陥っている。


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