この恋心に嘘をつく
「安生さん」
名前を呼ばれて、凛子は顔を上げる。
目の前に立っていたのは、満理だった。
「羊羹は、間に合った?」
「はい」
「…少し、話をしない?」
チラリと、専務室の扉を見る。
呼ばれてはいないし、少しくらいなら席を離れても大丈夫そうだ。
「じゃあ、屋上に行きましょう」
満理が上を指差す。
「屋上?」
「気持ちいいわよ」
手を引かれ、満理はエレベーターではなく階段へと向かった。
「屋上は、エレベーターじゃ行けないの。社長室があるフロアから歩いて行かなきゃいけないから、あまり人は来ないのよ」
階段を上りながら、満理が説明してくれる。
社長と鉢合わせする可能性もあるから、秘書でも屋上へ行く人は少ない。
他部署の社員ならば、尚更だ。