この恋心に嘘をつく
「もちろん、出ない杭は結局、上に行くこともできない。でも、私は目立ちたい性格でもないし」
そう決めたら、仕事が随分と楽になった。
誰にも付かないと決め、なるべく争い事にも干渉しない。
卑怯だと言われても、気にはしない。
嫌ならば、派閥争いなどやめてしまえばいいのだ。
「……なんで、そんな話を私に?」
「辞めてほしくないからよ。私は専務に味方するわけじゃないけど、専務に味方がいなくなればいいわけでもない」
あくまで中立なのだ。
満理はこの先も、この姿勢を崩すつもりはない。
「今のところ、気を付けるべきなのは常務達ね」
「常務…」
見かけたことはあるが、話したことはない。
環と副社長の貴志とは、少し違うタイプに見えた。
会社の重役にしては、軽薄そうな印象を受けたのを覚えている。