この恋心に嘘をつく
屋上を吹き抜ける風は、昨日よりも暖かく感じた。
「よっ、環兄さん!」
エレベーターに乗るところで、恭介に呼び止められた。
常務という肩書きよりも、モデルとか芸能関係が似合いそうな男だ。
「会社では専務と呼んでもらえるかな?」
「あ、そっか。専務ね、専務」
言い聞かせるように繰り返す恭介を、少し面倒だと思う。
「常務の所の秘書は、随分と仕事ができるらしい」
エレベーターの扉が開く。
環が先に乗り込み、ボタンを押す。
「何の話?」
「自分達の仕事以外にも、精力的なようだ」
ハッキリとは告げなかったが、恭介には分かるはずだ。
環の言わんとすることが。