この恋心に嘘をつく
「なぁ、兄さん」
恭介が、笑みを浮かべて言葉を返す。
「大切なものは箱に仕舞っておかなきゃ。箱から出せば、他の奴に取られるだろ?」
「――箱に入れっぱなしじゃ、見せつける事もできないだろ?」
エレベーターの扉が開き、環は足早に降りた。
「つまり、本気ってこと?」
「さぁ、どうだろうな」
扉が閉まると、もう環は見えない。
恭介は扉をジッと見つめ、微笑んだ。
「ようやく本腰を入れて動き出すわけだ」
でなければ、自分で秘書を探してくるはずがない。
楽しくなりそうだ。
胸が躍るとは、まさにこの事だ。
エレベーターが止まるまで、恭介はずっと楽しそうに笑っていた。