この恋心に嘘をつく
それを知っているからなのか、環は次の動きを悩んでいるように見えた。
(……穏やかじゃないわ)
ふたりは互いに見つめ合い、凛子の事など忘れているかのようだ。
「……お茶をいれます!」
意を決し、凛子は力強く恭介の手を振り払う。
こんな空気、耐えられない。
「――いや、いらないよ」
環はようやく、口を開いた。
優しいが、厳しい声。
「常務。悪いが、私も彼女も明日は早い。先に失礼するよ」
「気にしないよ。安生…だっけ? またね」
恭介はヒラヒラと手を振りながら、立ち去っていく。
「……えっと、あの方が常務――弟さん、ですか」
話してみると、兄ふたりとは違っていて驚いた。
会社の重役らしくない。