この恋心に嘘をつく
良く言えば親しみやすいタイプだが、初対面も同然の相手に対し、少々距離を詰めすぎだと思う。
意思とは無関係に、心臓がドキドキさしている。
「彼には気をつけた方がいい。手が早いから」
「……そうします」
思わず苦笑してしまった。
凛子は帰り支度を素早く終わらせ、引き出しに鍵が掛かっているか確認する。
「送ろうか?」
専務室へ荷物を取りに行っていた環が、車のキーを手に誘う。
「答えが分かってて聞いてますよね?」
「もしかしたら、って事もあるだろ?」
環は笑って、ポケットに車のキーを仕舞う。
何度も、今日みたいに送ろうか? と聞かれるが、その度に断ってきた。
仕事で会社の車に乗るのと、環の車に乗るのとでは違う。
いつも送ってもらっていては、それが当たり前になってしまう。