この恋心に嘘をつく
「…兄弟と、仲が良くないんですか?」
エレベーターへ向かいながら、凛子は聞いてみた。
派閥争いが起きているくらいだ。
良好とは言えないだろう。
「そう見えたか?」
「他人行儀、に見えたので」
「会社だからな。公私の区別は付けないと」
そうだろうか。
環から、家族の話を聞いたことはない。
思えば、環は自分の事を語らない。
専務付きだからといって、上司のプライベートまで干渉したいとは思わないが、あまりに知らなすぎるのも寂しい気がする。
「専務のお母さんって、どんな方ですか?」
話題を別にしようと思ったが、それは失敗したようだ。
環の雰囲気が、変わった。
「あの…」
「――君には関係ないことだ」