この恋心に嘘をつく
冷たい声に、体が固まる。
いつも笑顔の環には、似つかわしくない声だ。
「……すみません」
目を伏せ、居心地の悪さを感じる。
階段で帰りたくなったが、それもわざとらしい。
仕方なくエレベーターを共に待つが、沈黙が辛い。
(触れてほしくないのかしら…)
亡くなっているとか?
いやネットで見たが、存命だ。
綺麗な女性で、しかも実家は資産家だとか。
(やっぱり、家族との仲が悪い…? そういえば、専務は社長になりたいのかしら?)
派閥争いが起きているから、当たり前のように思っていた。
けれど、環自身の口から聞いたことはない。
社長になりたい、と。
(と言うか、もし専務が社長になりたいと思っていたら、秘書の私は協力すべきなの?)