この恋心に嘘をつく
正直、誰が社長になっても気にはしない。
環が社長になったからといって、自分が優遇されるとは限らないのだし、環を社長にするために誰かを蹴落とすような真似もしたくない。
「……」
「乗らないのか?」
気付けば、とっくにエレベーターの扉は開いていた。
「あ、乗りますっ」
慌ててエレベーターに乗り込み、チラリと環を見上げてみた。
怒っているようには見えないが、声はかけずらい。
(私、専務について何も知らないんだ…)
いつの間にか、勝手に近い場所に立っていると思っていた。
でも本当は、他の人と何も変わらない。
隣に居る筈なのに、こんなにも遠くに、環を感じているから――。
*****
常務室の広さは、専務室と然程の差はない。
ソファーの色が違ったりする程度だ。