この恋心に嘘をつく

「常務。サインをお願いします」

「ん~」


仕事中でも気にせず、恭介は携帯ゲーム機を持ち出して電源を入れる。

会社の一重役としては決して誉められた勤務態度ではないが、誰も意見をすることはない。

それというのも――。


「資料のグラフが違う。アレは13年のだろ?欲しいのは12年の。それから、取引先に送る祝い状だけど、会長の名前が違う。佑じゃなくて、祐の方ね」

「す、すみませんっ。すぐに修正します」


朝田が慌ててファイルと封筒を受けとる。

良く意外だと言われるが、恭介は記憶力がいい。
加えて、細かい部分も良く見ている。

故に、仕事中に遊んでいても、見逃してもらえるのだ。

無論、社長達には通用しないが。


「安生サンはどう? うまくやってる?」

「え? あ、はい。大きな失敗もないようです」


常務室を出ていく朝田を、呼び止める。


< 129 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop