この恋心に嘘をつく
「常務。サインをお願いします」
「ん~」
仕事中でも気にせず、恭介は携帯ゲーム機を持ち出して電源を入れる。
会社の一重役としては決して誉められた勤務態度ではないが、誰も意見をすることはない。
それというのも――。
「資料のグラフが違う。アレは13年のだろ?欲しいのは12年の。それから、取引先に送る祝い状だけど、会長の名前が違う。佑じゃなくて、祐の方ね」
「す、すみませんっ。すぐに修正します」
朝田が慌ててファイルと封筒を受けとる。
良く意外だと言われるが、恭介は記憶力がいい。
加えて、細かい部分も良く見ている。
故に、仕事中に遊んでいても、見逃してもらえるのだ。
無論、社長達には通用しないが。
「安生サンはどう? うまくやってる?」
「え? あ、はい。大きな失敗もないようです」
常務室を出ていく朝田を、呼び止める。