この恋心に嘘をつく
タクシーが停まったのは、海浜公園近く。
会社から近いと言えば近い場所だが、歩きで来るには覚悟がいる距離だ。
平日だからか、あまり人通りは多くない。
(なんで、会社に戻らないんだろ…)
何となく、理由は分かってる。
環は、怒りを消化しようと思っているのだろう。
こんな状態で仕事をしても、身が入らない。
前を歩く環の背中を、遠い存在のように見つめる。
掴まれた腕は、まだ少しだけ痛い。
「……」
何か言うべき?
言い訳とか、弁明とか。
「……あの、専務」
「昨日言ったばかりだろ? 宮ヶ瀬の人間に近づくな、って」
落ち着きを取り戻した声は、それでも厳しい色を含んでいた。
「…すみません。でも、優しい人でしたし…」