この恋心に嘘をつく

「傍に居れば、専務を理解しようと思うものです」


それこそ、喧嘩をすることだってあるし、互いの嫌な部分を知ることにもなる。

でも、それをしなければ、本当の意味で“専務付き秘書”にはなれない。


「専務は、それを望まないんですよね?」

「……」


環は答えない。

それが、何よりの答えだ。

凛子は黙って、腕時計を外す。


「お返しします」

「……?」


受け取らない環の手を取り、無理やり受け取らせる。


「私に、専務の秘書は出来そうにありません」


理解する必要はないなら、誰が秘書でも同じことだ。

自分の代わりは、いくらでも居る。

環は、また次を探せばいいだけだ。


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