この恋心に嘘をつく
魚心あれば水心
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「バカね! またフリーターに逆戻りじゃない」
平日のカフェで、美晴に怒鳴られた。
テーブルに広げられた無料の求人広告を眺めながら、凛子はその言葉を受け流す。
「聞いてる? せっかく良い会社に入ったのに」
「そうねぇ…」
美晴には、詳しく話してはいない。
入社するに至った経緯は話したが、社内についての話は、さすがに憚られた。
「いい? 楽な仕事なんて、この世にありはしないのよ。私だって、新入社員の頃は上司に怒られてたし――」
(そういえば、専務は怒ったりもしなかったな…)
軽く注意をすることはあっても、感情をさらけ出すようなことはしなかった。
思い出しても、浮かぶのは大抵笑顔。
普通は良いことだと思うのだろうが、凛子には真逆に思える。