この恋心に嘘をつく

*****


「専務。私は、小言を言うつもりはありません」


専務室、観月は冷静な声で告げる。

環はファイルを開き、観月を視界から追い出しているが、ページが変わる気配はない。


「ですが、聞いておきたいことはあります」

「……」

「彼女は、本当に休暇ですか?」

「……」


休暇だと秘書室に連絡したのは、他ならぬ環だ。

休暇の理由は、告げていない。


「では、聞き方を変えましょう。何故、休暇だと言われたのです?」

「それは……」


何故?

彼女は辞めると言った。
ならば、辞めたと正直に伝えればいいのだ。

なのに、環は言わなかった。

隠すかのように、認めたくないかのように、ただ休暇とだけ。


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