この恋心に嘘をつく
「おい! これボックスじゃねぇかっ。俺が言ったのはソフトだよ!」
時刻は21時半過ぎ――。
目の前の男性からは、強烈な酒の臭いがしていた。
「お言葉ですが、お客さま。お売りする際に確認致しました。マルボロボックスでよろしいでしょうか、と」
「はぁ? んなの知らねぇよ!」
唾を飛ばさないで。
心の中でため息をつき、レジのボタンを押す。
「では、ご返金をさせていただきます」
男性の後ろには、まだ3人並んでいるのだ。
隣のもうひとつのレジは、公共料金の支払いでまだかかりそう。
だから早く、終わらせなくては。
「金は払ったんだから、交換しろよ! ソフト1カートン。タダで寄越せ!」
「申し訳ございません、お客さま。私の一存では、出来かねます」
マルボロボックス1つ分の返金――460円を渡し、あとはご理解を頂いてお帰りになってもらう。