この恋心に嘘をつく
それは、名刺だった。
疑いながらも受け取り、文字を口に出して読み上げる。
「株式会社サクラ、専務取締役――宮ヶ瀬 環……え?」
聞いたことのある会社名に、自分の目を疑った。
株式会社サクラは、国内でも有数の化学メーカーだ。
自社ブランドも持ち、化粧品などの製造・販売だけでなく、エステサロンなどの経営も行っている。
経営者は名家で、親族経営なのだとか。
「……あ、あの……」
あからさまに動揺する凛子を見て、男性――宮ヶ瀬 環はおかしそうに笑う。
「――俺の秘書にならないか?」
世の中には、たくさん驚くことがある。
予想外の出来事は、本人に前置きもなく訪れて、一瞬でその人の世界を変えてしまう。
そんな経験を自分がするなんて、ほんの少しも思っていなかった――。