この恋心に嘘をつく
「ごちゃごちゃ言ってないで、交換しろよ! お客さまは神様だろうが!」
それは接客業には適用されない。
とは言え、ここで何か言えば火に油。
言いたいことを飲み込んで、冷静さを保つ。
「申し訳ございません。どうしても納得いただけないようでしたら、店長の方から後日改めて連絡させていただきます」
少しだけ乱暴に、ボールペンとメモ用紙をカウンターに置く。
「ですので、こちらにお客さまのお名前とご連絡先をお願いいたしますっ」
経験上、これを聞けば大抵の客は仕方ない、と諦めるものだ。
男性も、少しだけ躊躇っているように見える。
「お願いいたします」
「――っ。融通がきかねぇな! こんな店、二度と来るかっ!」
やっと帰る――。
ホッとした瞬間、男性がカウンターに置かれたマルボロボックスを手に取った。