この恋心に嘘をつく
美晴が不思議そうに、スーツのタグを見る。
「普通ってことは、可もなく不可もなく、ってことでしょ? 気合いを入れすぎると反感を買うかもしれないし、逆に手を抜きすぎるとやる気がないように思われるもの」
普通っていうのは、すべての真ん中なのだ。
「相変わらずね。1着でいいの?」
レジへ向かう凛子を追いかけながら、美晴は他のスーツを横目で見ている。
「予算の都合上、1着しか無理」
「他に何買うの?」
「靴。あと、ブラウスとか」
店員がタグを切る間に、財布を取り出す。
「就職祝いに、夕食をおごるわ。何がいい? 奮発するわよ」
「イタリアンかな。――あ、ありがとうございます」
店員から袋を受け取り、二人は店を後にした。