この恋心に嘘をつく
「身も蓋もないわね」
「そういう意味でしょ? それにしても、よく受ける気になったわね、その話」
環の身元はしっかりと分かっているから、安心と言えば安心だろう。
けれど、それを差し引いても謎が多すぎる。
「虎穴に入らずんば、虎児を得ず――って言うでしょ」
食事の手を止めることなく、話を続ける。
「つまり、危険を冒さないとチャンスをものにできない、って言いたいのね」
「こんな幸運、2度と来ない。就職できる保証もないし…」
もしかしたら、また一年間、フリーターを延長しないといけないかもしれない。
そう思っていた矢先に舞い込んできたチャンスだったのだ。
「あの人には、私の代わりはいくらでもいる」
自分が断れば、次を探しに行くのだろう。
代わりはいくらでもいるけれど、凛子には違う。