この恋心に嘘をつく
環は頷き、ふたりは秘書室を出ていく。
「お話とは?」
「新しい秘書が入るのは、良いことです。それについては、何も申しません」
背筋を伸ばし、一切の感情を抑えたその姿から、彼女は【観月女史】とも呼ばれている。
「ですが――他の秘書は、信用できませんか?」
「……彼女達に、罪はない」
環は苦笑し、視線を泳がせる。
観月と対峙して、目を合わせられる者は少ない。
彼女の目は、嘘を簡単に見抜いてしまうから。
「では、新しい秘書が来るまでの間、羽村を専務付きとします。一時的ではありますが、よろしいですね?」
「構いません。では、仕事に戻りますので」
早々と立ち去ろうとする環を、観月が今一度呼び止める。
「その者は、専務の信用を得られますか?」