この恋心に嘘をつく
振り返ることは、できなかった。
「……」
「沈黙が答え、ということですね?」
「解釈は任せます。――では」
背を向けたまま、環は専務室へ帰っていく。
「――貴女達の仕事は、くだらない噂話をすること?」
秘書室へ戻れば、秘書達が仕事もそっちのけで話し込んでいた。
「す、すみませんっ」
慌てて自分のデスクへ戻る秘書達を呆れながら見つめ、観月も席へ着く。
(安生 凛子――さて、どんな子かしら…)
楽しみなようで、その実、嵐の予感がする。
新しい風は、良くも悪くも、吹き荒れるものだから――。