この恋心に嘘をつく
そんな視線を向けると、環は観念したようで、こちらに体を向けてくれた。
「君を逃がさないためだよ」
「……は?」
聞いてもわからない。
もっとシンプルに言って欲しいのに。
「秘書の仕事は、予想以上にハードだ。君には無理難題を押し付ける事も多くなる。だから、辛くなった君が秘書の仕事をやめないため、かな」
「袖の下…」
ボソッと呟いたら、環がおかしそうに笑った。
「――これは、似合う。どう?」
ショーケースから取り出してもらったのは、淡いピンクの腕時計。
飾り気はあまりないが、優しい印象を与える色使いだ。
「可愛いですね」
何気無く言ったつもりだったのだが、了承と捉えられたようだ。
サイズが合うかどうか、確かめさせられた。