この恋心に嘘をつく
「ピッタリですね」
店員の女性が誉めてくれるので、悪い気はしない。
「良さそうだ。これを」
「ありがとうございます。お包みしますか?」
「いや。このままでいい」
環がカードを渡すと、店員は静かにその場を離れる。
(いいのかな? まだ働いてもいないのに、こんな高いもの…)
ここまでしてもらっては、本当に逃げられない。
何かをもらって心苦しくなるのは、はじめてだ。
「男性が女性に時計を贈るのは、同じ時を共に歩もう、という意味があるそうですね」
昔、何かの本で読んだのを思い出した。
あの頃は特に何も思わなかったが、今思えば、中々に重い。
「へぇ。じゃあ、逆は?」
「あなたの時間を、少しでも束縛したい、だったかな?」