この恋心に嘘をつく

環はカードを受け取ると、さっさと店を出ていく。

外に出ると、温度差に一瞬首をすくめる。

春は近いけれど、やはりまだ寒い。
早く桜が咲けば、この寒さも少しは和らぐのに。


「送るよ」

「バスで帰ります。仕事があるのでは?」


買ってもらったばかりの腕時計で、時間を確認する。

本当に、もらってしまっても良いのだろうか?
袖の下だと思っても、やはりモヤモヤする。


「まぁ…」

「大丈夫ですから」


環を運転席に押し込めば、彼は少し不満そうだ。


「…次に会うのは、入社する時、ですね」

「そうだな。――ん」


環が窓から、手を出す。
握手?

つい、握り返してしまった。


「よろしく頼むよ」

「……はい」

< 75 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop