この恋心に嘘をつく
環はカードを受け取ると、さっさと店を出ていく。
外に出ると、温度差に一瞬首をすくめる。
春は近いけれど、やはりまだ寒い。
早く桜が咲けば、この寒さも少しは和らぐのに。
「送るよ」
「バスで帰ります。仕事があるのでは?」
買ってもらったばかりの腕時計で、時間を確認する。
本当に、もらってしまっても良いのだろうか?
袖の下だと思っても、やはりモヤモヤする。
「まぁ…」
「大丈夫ですから」
環を運転席に押し込めば、彼は少し不満そうだ。
「…次に会うのは、入社する時、ですね」
「そうだな。――ん」
環が窓から、手を出す。
握手?
つい、握り返してしまった。
「よろしく頼むよ」
「……はい」