この恋心に嘘をつく
「美子(よしこ)が本名よ。でも、本人は嫌いらしくて、みこ、って言うの。いつもね」
「へぇ…」
先程まで静かだった秘書室が、急に活気に溢れ始める。
「おしゃべりはそのくらいにして、仕事に戻りなさい」
観月の一声で、全員が慌てて自分の仕事に取り掛かる。
「今日はまず、雑用をしてもらいます。電話は取らないで、コピーやお茶くみ等を中心にお願いします」
「はい」
「分からないことがあれば、すぐに聞きなさい。じゃあ、まずは案内を――」
観月が秘書室を見回す。
「私が行きます!」
手を上げたのは、羽村だった。
少し顔が赤いのは、今しがたの口論のせいだろう。
「では、羽村に任せます。案内が終わったら、私のところへ来るように」