この恋心に嘘をつく
「仕事熱心だな」
「――あ」
自分以外居ないはずのオフィスに響く、男性の声。
振り返れば、環がいた。
「こ、こんばんは」
ファイルを閉じ、立ち上がる。
外で会うのと、会社で会うのでは、環が違って見えるのは不思議だ。
今の彼は、間違いなく専務に見える。
「観月女史は厳しいが、有能だ。彼女の下で学べば、どこの会社でも通用するようになる」
「……」
「どうかしたか?」
凛子が全く反応しないから、環は首を傾げる。
「疲れたのか?」
「いえ…あ、疲れてはいます。ただ…」
「ただ?」
凛子はゆっくりと、微笑んだ。
「知り合いに会うと、こんなにも安心するものなんですね」