今日こそ絶対に自殺します。






後輩もいなくなり、親父もいなくなった空っぽの練習場。



俺はリングに立つと、目の前にあるサンドバッグに拳を打ち込もうとした。



打ち込めば、少しはこの気持ちもストレスもすっきりするかもしれないーーー


そう思ったのだ。




「………」



ーーー目を瞑る。


ーーー目を開く。


ーーー相手を睨む。


ーーー拳に力を……

















「……ん?」




あれ、おかしい。


拳に力が入らない。




「……っ」



なんでだ…?

なんで力が入らない…!?




俺は必死に自分の拳に力を入れようとした。



ーーーだけど、


拳はまるで自分のものじゃないみたいに、体の脇でダランと伸びている。





「…うぅ…ううう…グスッ…」



もうすぐ29になるおっさんだというのに、俺は本当にガキみたいだ。



こんなことで涙を流してしまうなんて。




「うあぁぁああぁぁあああ!!!」




こんなことで、


声を上げて泣き喚いてしまうなんて。











ーーーそれ以来、俺は拳を握ることをやめた。


ボクシングも夢も、諦めた。






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