今日こそ絶対に自殺します。





「なんだ」



睨みながら俺が返事をすると、男は笑みを浮かべたまま両手をこすり合わせた。



「いやーこんな時間に浜辺で走り込みとか本当に努力家なんだなーって思って!」



ーーーところで、



ピョンピョンと男は跳ねてくると、俺の前でぴたりと止まった。





「ーーーなんのスポーツをやってらっしゃる方なんですかぁ?」




ーーードキッ




俺は言葉に詰まった。


なんのスポーツをやってるって言われても…




「………」


俺はただ黙って男の顔を見つめた。


男の顔はとんでもないアホ面で、ペットの子犬のように目を輝かせては、鼻をヒクヒクとさせている。


月光しか頼りにならない今でも、それは十分に分かった。






ーーーどうせ頭おかしいやつだろ。


こいつになら嘘ついてもいいかもしれねぇ。





「ーーーボクシングだ」






俺は、


嘘をついた。




自分の夢を、


まるで現実であるかのごとく、



軽々しく口にした。










「へぇーボクシング!!奇遇ですね!
俺も好きなんですよボクシング!」


「え?」




途端に目の前の男はボクサーの構えを作ると、ニヤリと笑った。





「一つ、手合わせ願えませんかね?」






< 146 / 326 >

この作品をシェア

pagetop