今日こそ絶対に自殺します。
「なんだ」
睨みながら俺が返事をすると、男は笑みを浮かべたまま両手をこすり合わせた。
「いやーこんな時間に浜辺で走り込みとか本当に努力家なんだなーって思って!」
ーーーところで、
ピョンピョンと男は跳ねてくると、俺の前でぴたりと止まった。
「ーーーなんのスポーツをやってらっしゃる方なんですかぁ?」
ーーードキッ
俺は言葉に詰まった。
なんのスポーツをやってるって言われても…
「………」
俺はただ黙って男の顔を見つめた。
男の顔はとんでもないアホ面で、ペットの子犬のように目を輝かせては、鼻をヒクヒクとさせている。
月光しか頼りにならない今でも、それは十分に分かった。
ーーーどうせ頭おかしいやつだろ。
こいつになら嘘ついてもいいかもしれねぇ。
「ーーーボクシングだ」
俺は、
嘘をついた。
自分の夢を、
まるで現実であるかのごとく、
軽々しく口にした。
「へぇーボクシング!!奇遇ですね!
俺も好きなんですよボクシング!」
「え?」
途端に目の前の男はボクサーの構えを作ると、ニヤリと笑った。
「一つ、手合わせ願えませんかね?」