今日こそ絶対に自殺します。






ーーーなんでこんなとこにいるの!?




私はただ唖然としていた。



ずっと学校に顔を出さなかった奴が、どうしてこんなところで海を眺めているんだってーーー







「……っ」



声をかけようかどうか迷った。



しかし迷った挙句、私は声をかけなかった。








ーーーこれが、最後の一枚。




後ろからこっそり奴の姿を撮って、カメラにおさめようと思ったのだ。








「………」




気づかれないようにして、私は少しずつ奴に近づいていった。




しばらく学校に行ってないのにも関わらず、奴はなぜか制服を着ていた。



まだ冬の寒い時期。



深緑色のブレザーを羽織っている。






そして、手には何か紙切れのようなもの。



握りつぶされるようにして持たれているそれは、グシャグシャに丸まっている。






ーーー奴は一つもこっちを見ない。



ずっと、海のまた向こう側を眺めている。









ーーー私はカメラを構えた。



ファインダー越しに彼の背中が見える。



そして、ボタンを押すーーーその時だった。







「うう……ううぅ…グスッ……」



急に泣き声が聞こえてきた。



しかも、前方からーーー






「っ!」



私は思わずファインダーから目を離し、自分の目で奴の背中を見つめた。



奴の背中はーーー震えていた。






「うぅ…うああああああ!!!!」






奴はーーー泣いていた。







「……グスッ…」



私は溢れる涙を抑えて、ファインダーを再度覗いた。


涙でボヤけてうまくピントが合わない。




そして、




「ーーーカシャ」




私は最後の彼の後ろ姿を写真に撮った。



涙で溢れた、泣き顔の後ろ姿をーーー










私は走って逃げた。



全力で走って逃げた。



「ーーーうあああああ!!」



奴から少し離れたところで、私はやっと声をあげて泣くことができた。



映る人も涙、撮る人も涙。





涙のシャッターは、



私の心の奥底に残ったーーー






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