ワケあり彼女に愛のキスを
「あのゴミ捨て場のドア、猫がどんなに引っ張っても開かないようになってるって。あのドアノブ、普通に丸いだろ。
考えてみればまぁそうかと思いながら、月曜ゴミが荒らされてた事言ったら、そん時の防犯カメラの映像調べてくれて……何が映ってたと思う?」
そう聞いた優悟が、チラッと女に視線を移すと、女の表情がしかめられているのが見て取れた。さきほどまで浮かべていた悲痛とは違って、焦りの方が強いようだった。
「何が映ってたの?」と恐る恐るといったふうに聞いてくる舞衣に、優悟が呆れたような笑みを浮かべながら言う。
「長い髪の女が漁ってるところがばっちり映ってた。ああ、ちょうどそいつみたいな」
「え……っ」
驚いて声をもらした舞衣が、ゆっくりと視線を移すと、女は視線から逃れるように俯く。
そんな様子を見ながら優悟が続けた。
「何探してたんだか知らねーけど。ゴミ漁ったりすんのは、恋愛感情からくるもんだとストーカー規制法に引っかかるって。管理人が通報するようなら証拠として映像提出するから言ってくれってさ。
通報すんなら傷害罪も上乗せしてもらわねーとだけど……おまえはどうしたい?」
急に聞かれた舞衣が、女をチラッと見てから優悟を見て首を振る。
どうやら通報はしなくていいという事らしいと理解してから、優悟も女に視線を戻した。
「今後一切、このマンションにも俺にもこいつにも近づかないって約束するなら通報はしない。もし、これ以上続けるようなら今すぐ通報する」
「どうする?」と聞いた優悟に女は焦燥したような表情を浮かべ……そして小さく頷いたのだった。
女がトボトボと歩いて行く背中を眺めていた舞衣がやけに静かな事が気になり、それを聞くと。
舞衣は苦笑いを浮かべながら優悟を見上げた。